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贅沢をおしえてくれたひと - 2013.01.31 Thu

学生の頃、東京の西荻窪に住んでいた。
西荻窪は、アンティーク街と呼ばれる程、骨董品やジャンク品(一般的にはガラクタと言われそうな古い品物)を置いている店が多かった。
そして、田舎者の私からみると、異様にクリーニング店と美容院の多い住宅街。
一方でジャズバーや美味しいパン屋も点在し、JR中央線の隣駅である荻窪や吉祥寺とは雰囲気が随分違った、少し変わった街だった。
住んでいる人も変わった人が多く、西荻窪で商売を続けて行くのは難しいと聞いた事がある。

学生の私は時間がたっぷりあるので、暇さえあれば近所を散策していた。
そんな時に、一軒の自転車屋さんに入った。
そこに陳列された自転車は、みたこともないくらいに恐ろしくシンプルなつくりだった。
タイヤが細く、他のパーツも無駄なものが一切見当たらない美しいもので、持ち主の好みや生活スタイルによってカスタムできるようになっていた。
形のシンプルさに反して車体の色はクリアな赤や、山のように深い緑だったりして、ママチャリかマウンテンバイクしか知らなかった私は、一瞬で虜になった。が、お値段も当然手の届くものではない。
中には入れずにいつも店の前を羨望の眼差しで横切っていた。
敷居の高いその店に、なぜ入ることになったのか、あまり思い出せないが、ある日友達とふたりでふらっと店に入った。
友達がいるという安心感があったのかもしれない。
店主は白髪を後ろに束ね、着込んだダンガリーシャツとジーンズがよく似合った年配の男性で、穏やかさの中に厳しさがあるような、そんな雰囲気の持ち主だった。
しばらく話をしていて、小腹が空いた頃、店主が「ちょっとそこのパン屋で食パンを買ってきてくれないかな」と言って私達にお使いを頼んだ。
私達は、自転車屋の近所にあるごく普通のパン屋で言われた通り、食パン一斤を買って店に戻った。パンはごく普通だったが、焼き立てだった。
店に戻ると、店主がコーヒーを入れていた。
そして、私達を座るように促した後、食パンを切り分けて手渡してくれた。
目の前におかれた飾り気のないマグカップに入ったコーヒーには、ミルクもお砂糖もついてなかった。
店主は私達に「パンはこのまま何もつけずにコーヒーと一緒にどうぞ。それだけで充分美味しいから。」
と言って自ら美味しそうに、何もついていない白い食パンを食べ始めた。
私達もあとに続いた。
パンは、口に入れようとした瞬間、皮の芳ばしい香りがした。口に入れた後はもちっとした食感がした。
初めて食パンそのものの味を知った気がして感動した。
コーヒーは今思うと器を温めた後、少しずつ注いでくれたのだろう、カップは熱く、豆のすごくいい香りがした。そこに置いてある自転車のようにシンプルに美味しかった。
どちらも飾りはないが、とても丁寧な味だった。
美味しい、美味しいと食べている私達に、店主が微笑みながら言った。
「ね、なんか贅沢でしょ。」
なんだかじんわりと幸せな気持ちになった。
「ああ、贅沢ってこういうことなんだ」
有名であったり、高ければいいものではない。と実感した。
二十歳の多感で傲慢な頃に、こんな贅沢の仕方を知ることができてとても幸せだったと思う。
今もその自転車屋があるのか、店主がご健在なのかはわからないが、大切なことを教えてくれたその人にとても感謝している。
だから私にとっては今でも、何もつけない食パンとコーヒーは特別なものである。
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Author:遊
高知・四万十より
遠くに住む友人に捧げるつもりで書いています。
田舎ならではの自然の写真もどうぞ。
帰る田舎のある人もない人も、懐かしい気持ちになれるようなブログになるといいなと思います。

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